「物作りは恋人への想いと同じ」靴職人/アーティスト花田優一さん独占インタビュー

2月7日に工房の一般公開を発表した靴職人/アーティストである花田優一さんのアトリエに潜入し、本誌独占インタビューを敢行。
創作活動を始めたきっかけ、物作りへの哲学、繋げていきたい想いをarneだけに聞かせてもらいました。

―月並みな質問から失礼しますが、何故、靴作りを始めたのでしょうか?

 誤解を恐れず言うと、最初から「どうしても靴じゃなければ!」という熱量ではなかったんですよね。
一番近いイメージが恋人を作るようなもの。
上手くいくかどうかは分からないけれど、気になるし好きだから付き合ってみようと思う。
そして実際に付き合ってみたら上手くいっただけなんです。

―とても私達に伝わりやすく、かつ詩的な表現で素敵です。
とは言え、何不自由無い日本の生活を捨て、未成年が単身イタリアで暮らすのは相当な覚悟がいることです。
そこまで踏み出せたのは何故ですか?

 10代の頃の原動力は、とにかく同級生達より圧倒的に突き抜けたいという想いからでした。
社会に出たら横並びで一斉スタートになっちゃうじゃないですか?
そうなる前になるべく早く差をつけたかった。

二十歳までには自分で食えるようになりたい、だったら十八からでも遅いくらい。
親父に関して言えば、二十二で天下獲ってますからね。

花田の家系は皆十代の内に力士になってるから、僕も半強制的にも自分の道を決めなきゃいけない気がしていた。
普通の大学に行ってから卒業してからようやく就職するという時間軸じゃなかったんです。

―なるほど、一歩も二歩も先んじるそのスピード感、その危機感のルーツに納得出来ました。
将来に不安だからととりあえず猶予期間のように大学行き、並べられた選択肢の中から就職する。
そんな職業選択がまだまだ多く残る現代において、
安定ルートを通らずに不安定な職人の道を選んだのは何故ですか?

 シンプルに横並びの人生が嫌っていうのはありましたね。
男女問わず、個性を持っている人が恰好良いと思っていました。

でも実際なってみたら、めちゃくちゃ大変だからお勧めはしないですけどね(笑)
アーティストや職人が、自分の名前と責任で食っていこうとすると、
病んで自殺してしまうまで自分を追い込んでしまう気持ちも分からなくは無いです。
比喩じゃなく、一歩間違えば、死んじゃいますから。

例えば相撲も凄い厳しい世界ではありますが、国技として尊敬され、協会があって、土俵があって、お客さんがいて…、
と全てが整った中で勝負に集中出来ますが、
靴に関して言うと、自分で宣伝して、自分でお客さんをとってきて、ようやく作ったものを発表出来る。
それも束の間、ちょっとでも評価が下がれば、地の底に落とされる。

そんな生き方は間違いなく、楽しい日々より死にたくなる日の方が多い。
大きな不安と一瞬の安堵、その繰り返しですね。

まあ、だからこそ、この険しい道に敢えて、この世界に臨みたいと思ってくれる若い世代の為に、道を切り拓いていきたいですけどね。

―「靴だけ作ってればいいのに」「なんで職人が芸能界に出てくるんだ」と言う世論に、今の言葉聞かせてやりたいです。
花田さんが矢面に立たなければ、“靴職人”という単語すら言葉にされることもなかった。
ある程度整備されてる道でなく、今まさにその身で突き進むことで轍を作っているんですね。

 はい、別に目立ちたくもないですが、もっと純粋に物作りに集中出来る、職人が憧れられる社会になって欲しいですね。
だからこそ今はメディアのオファーはなるべく断らず、後進の為にも職人を広く世間に知ってもらう為に露出しています。

「靴だけ作ってろ」というのは、芸人さんに「ステージで漫才だけやって、テレビには出るな」と言ってるのと一緒。
いや、それどころかモデルや歌手や作家にスポーツ選手、テレビに出てる人は皆ほとんどが本業を持っていますよね。

―有名人だけに轍を切り拓いてゆく辛さは私達の想像を絶する痛みを伴うものだと思います。
一方でもう少しミクロ的視点、arne読者層のような一作家としての大変さみたいなものはありましたか?

 それで言えば、挫折の原体験と感じたのはイタリア修行時代に革一枚をぽんと渡され、靴を作れと言われた時。
当たり前ですが、平面の革を、立体的な靴にする、というのは本当に無謀に思えた。
しかもイタリア語も分からない、「いや、無理だろ…」って人生初めて思ったのは、その時ですね。

もちろん今思えば、あんなに幸せなことは無いですけどね。
あの時は靴だけ作ってればよかった、世間と戦うこともないですし。

イタリア行く前にアメリカに留学していたのですが、その時初めて父に「靴職人になりたい」と相談したんですね。
すると「学校の成績は何番だ?」と言われた。
「下から数えた方が早いです」と言ったら、「教科書のある世界で一番になれない奴は、自分の教科書を作らなきゃいけない職人の世界で通用するわけない」と一蹴されました。
それから勉学に励んで、イタリアに行けることになりました。
修行が苦しい中でも、フィレンツェでの日々は、心から自分のやりたいことをやれている止め処ない興奮と、ただただ前に進めていると自信を感じる時間でしたね。

―若かりし頃はどうしても自分の置かれている環境への感謝や幸せを実感しづらいですもんね。
逆に当時から今でも変わってない部分はありますか?
きついなりに自分のやりたいことだけを追求出来ていた時期。
そして今、独立し様々な波とも戦うこととなっている時期と比較しても、
根っこにある部分と言いますか。

 はい、あります。
それは「圧倒的な個性しか生き残らない」ということです。
老若男女問わず、僕が心から格好良いと思える人は、
その人にしか出来ないこと、オリジナリティある生き方をしていた。

周りに言われたからやるのではなく、時に抗っても自分を曲げない。

良い大学を出て良い就職をして、行列からはみ出さないように生きていくのが今の日本じゃないですか?
「でも俺はこれがいいと思うんです」と敵を作っても声を大にして言えるか?と今も自分に問いかけてます。

だからアーティストって魅力的な人生なんだと思う。

この先もっと科学が発展し、ロボットが当たり前の時代になった時に横並びの仕事は奪われていきます。

その時、誰も真似出来ない圧倒的個性が生き残るんです。

 ただね、良くも悪くも世間に晒されれば個性は出ますが、
やっぱり僕みたいな生き方は苦しいと思う。

だからこそこの道を後に続く人達がいるのだとしたら、僕だけは無条件で味方でいてあげたい。

若くしてのし上がろうとする子達を目の敵にして、自分が夢を諦めた捌け口に芽を摘んでいく大人達いますよね。

「お前等だって失敗しながら登ってきたんだろう、我慢して歳とってからじゃないと成功しちゃいけないのかよ?」
って思うんです。

だからこそ圧倒的実力や結果も示して、黙らせたい。
その為には僕も口だけじゃなく自分自身も成長していかなきゃいけない。

―何故、日本はそういった「出る杭は打たれる」社会が未だに横行しているのでしょう?

 例えば、今芸能で頑張っている若い世代も沢山いらっしゃいますが、それでもほとんどが大手事務所のバックの力に依るところが大きいと思います。

ユーチューバー等が一夜にしてアメリカンドリームを掴む、十代が当たり前のように起業する海外からして見たら、あまりに旧態依然のシステム。

そうではなく、若者が自分の力でも登りつめることがで出来る土壌なりを国や企業が支援しなくてはいけない。

恐らく鎖国していた時代が長いから、「村八分」の根性が根深いんじゃないですか?
出る杭は打たれ、皆で足を引っ張り合い、誰一人はみ出すことなく我慢し合おうの国民性。

―そこを25歳の若さで辿り着けていることがすごい。
ご自身では「もう遅いくらい」と仰ってましたが、
他の同世代は社会人三年目、世間に揉まれ自分のことだけで精一杯だと思います。
客観的に見て花田さんは変容してしていくスピード感が他者のそれとは違うと感じます。
一本曲げない軸はブレてないとは言え、21歳で初めて本を出した当時から変わった部分はありますか?
例えば、当時の本には「リピーターは要らない」と書いてあります。

 俺そんな生意気なこと言ってたんですね(苦笑)
いや、普通にリピーターは必要。
でもその時そう言った気持ちも分かるんですよ。
修理しなくとも何十年も履ける最高の靴を作りたいと思った、それがお客様に対する最高のサービス提供だと思ったんです。
あれから商売を続けてきて、今は素直にリピーターは必要と言えます。
と言うより、用がなくとも常連さんがふらっと話にきてくれるような職人でありたいと思えるようになりましたね。
そんな変化はありました。

―自分の言ったことを覆せる、変に取り繕わずに自分の恰好悪さを認められることは恰好良いと思います。

 でもそれをメディアは嘘吐きと掻き立てるんですよね。

出版の話がきた時に「自伝を書いて欲しい」と言われたんですよ。
21のガキですよ?自伝を書くなんて、「だったら親父にオファーした方が良いですよ」と言いました。
でも僕が書くんだったら、大人になって見返した時に恥ずかしくなるようなものを書きたいと思った。
21のクソガキだからこそ抱けた絶対的な価値観を、世間に晒す、それって面白いと思ったんです。

きっと今再び本を書いても、また十年後の僕は「粋がいいな、生意気なこと言ってるな」と思うはずなんです。
これからも僕はきっと変化を伴う成長は続けます。
でもそこに嘘がないことは自分が一番良く分かっています。

 あとは丸くなったと言うか、素直に人の意見に耳を傾けられるようになった。
かつての僕は自分や師匠の意見だけが絶対的だった、他人とは「分かり合えなくてもいい」とさえ思ってましたが、
今は人の言葉も自分の糧にしようと思えるようになった、少しはね。

幾らアーティストになりたいと思っても、昭和平成の成功モデルと令和のそれは変わりました。

今はネットも普及し、国境もあってないようなものになり、諸先輩方が時代に対応出来なくなっていくのを見て、
俺は耳を傾けられる職人、変化し続けられるアーティストになろうと思いました。

細かい理由を除いて、職人が消えゆく一番の理由は、職人と一般人を繋ぐものが極端に少なくなっているから。

アーティストって浮世離れした理解されがたい部分が魅力だけれど、とは言え消費者は一般層なんだから、理解だけはしてもらわないとならない。

特別なものを生み出すんだけど、常識も理解しないといけない、バランス感覚ですよね。

頑固で昔堅気の職人気質だけではこれからは駄目、時代に合わせて変化していくことで、新しい個性になるんです。

―メディアの切り取り方って、世間分かりやすく受けるために酷く両極端なアングルを描きますが、
人間ってそんなステロタイプにカテゴライズ出来るもんじゃないですよね。
花田さんも然り、冷静と情熱、狂気と柔和が共存し、確固たる意志を持ちながら、普通に凹む繊細な心もお持ちである。
そんな人間らしいバランス感覚をお持ちになっている等身大の男性の花田さんがとてもキュートです。
次に物作りにおけるマインドセット、ご自身に課しているものがあればお聞きしたいのですが。

 僕等って工業製品的な物作りをしてないじゃないですか。
作っているのは靴だけれど、作業者ではなく創作者と言うか。
僕の魂から絞り出す一滴が靴に凝縮されているんです。

だから人にも自分にも日常で嘘ついてたら、それは作品に出てしまう。
だからどれだけ真っすぐな自分であれるかは心がけてますね。

いつも取り繕って生きている人は、言い訳じみた歌詞になるし、
いつもがむしゃらに生きている人は、真っすぐな歌詞を書くと思う。
だから人間性を極めていけばどんな分野も必ず成功すると思っています。

―それで言えば、靴作りだけでなく、花田さんは歌や絵も嗜んでらっしゃいますよね。
恐らく誰もが聞きたい質問の一つであろうと思いますが、それらの違いや、やる意味を教えて頂けますか?

 「これが金になるからやる」って世界じゃないじゃないですか、アーティストは。
“優一”という僕が絞り出すものに興味を持ってくれる人がいて、そこにお金が発生するだけ。

よく「手広くやらずに、一個を極めろ」と言われますが、靴も絵も歌も、物作りには変わりはない。

今ある騒動も含め、花田優一に興味がある人達が手に出来るソースを色んな分野で広げるだけ。
その軸となっている、僕の魂のエッセンスは全ての作品に込められているんです。

「一個に絞れ」と言ってくる人に対しては、「貴方のキャパでは一個しか出来なかっただけでしょ」としか言えないですね。
例えば、サラリーマンが休日釣りに行っている時間に、それを仕事にし、それにお金を払ってでも求めてくれる人がいるだけ。
もちろん一個だけを追及する素晴らしさもあるとは思いますが、僕は色んな分野から刺激をもらうことで、色んな分野に刺激も返せる性分なんです。

―今もそうですが、花田さんは言語化や物や形にすることが飛び抜けていますよね。
本当は誰もが抱いている想いや理想や感情を、創作活動、表現活動に具現化している。

 そう、だから恋愛と一緒なんですよ!
好きな人を手に入れたいとき、あらゆる形で想いを届けようとするでしょ?
想いの溢れるままやりたいことをやればいい。自信を持って表現すればいい。
そこに世間の常識やノイズに囚われない欲しいんです。
アーティストは目に見えないものを見えるようにする仕事だから。

―すごい、綺麗に一番最初の恋愛の話に戻ってきました(笑)
最後に今後の展望についてお聞かせ頂けますか?

 本当は別に国内だけでの成功に興味はなくて、今年の3月に生活の拠点をアメリカに移そうと思ってたんですよ。

そして一月にもアルバムをリリースしたがコロナでライブも出来なくなってしまった。

製作活動は変わりなく進めていきますが、やはり個展や展示会、ライブ等大好きな人との触れ合いが出来なくなってしまったから、一般に向けた工房見学を始めたんです。

ですから良く聞かれますが、本当に一般層の人やファンも来て欲しいですね。
テレビ等の媒体は多くのファンを増やすことは出来るかもしれないが、やはり一人ひとりの顔を見て言葉を交わすのはやはり違いますから。
いつでもお待ちしています。

(了)

作品以上、活動以上に知名度が先行してしまっていた花田さんの貴重な肉声。

アートを知らない人は作品しか見ないけれど、こうして言葉を媒介することで、より作品や花田さんへの理解が深まりました。

どこの誰が言ったかも知らない聞き伝ての噂話でなく、花田優一という一人の人間と向き合い、その口から紡がれる言葉に耳を傾けて欲しい。

だからこそ彼を訪ねてもらいたいです、フラットな目線で見た時YUICHI HANADAの作品の魅力はより輝き、その愛着は圧倒的に高まるはず。

花田優一

靴職人/アーティスト/デザイナー

URL:[HP]https://www.yuichi-hanada.co.jp/
[Blog]花田優一オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)
[Instagram]花田優一 Yuichi Hanada(@yuichihanada_official)