価値を紡ぎ、未来に繋ぐ「-TSURU-」インタビュー

世界三大織物としても知られる奄美大島の伝統工芸、大島紬。

単身奄美大島に渡り厳しい修行の末、機織り職人を仕事にした女性がいます。

彼女、中川さんはさらに進化を遂げ、より身近に大島紬を感じてもらいたいと、時代にマッチする形でブランド-TSURU-を立ち上げました。

今回arneだけに-TSURU-のこれまでの足跡と、これからの想いについてお話頂きました。

ーまずはじめに、大島紬との出逢いをお伺いしてもよろしいでしょうか?

元々着物に憧れがあって、自分でも着てみたいと思って着付け教室に通うようになりました。

着物って高価じゃないですか?

自分の着物が無いから最初は祖母のものを借りていて、その中に大島紬がありました。

目が細かくて、驚くほど軽い。

下手なりに着付けても、簡単には着崩れしない。

シャリ感も着物じゃないみたいだった。

染めていると思っていた模様も、聞いてみたらどうやら違うらしい。

最初はそんな印象でした。

着付けを習っていた呉服屋さんでたまたま『大島紬展』という催事があり、
現地の、後の親方になる方の奥さんが売りに来ていたので、
そこで細かい工程を聞き、
「人間ってすごいな…と。日本人ならではの真面目なところが出てるな
これが出来たら楽しそう」だと思いました。

―「柄が好き」、「素材が好き」というのはもちろんありますが、それを「自分が作る側になろう」とはなかなか思わない。

「音楽が好きだからミュージシャンになろう」と思う感覚と同じなのでしょうか?

そうですね、元々自分でなんでもやりたいタイプ。

自分にしか出来ないことを探してたんだと思います。

―「音楽好きだから音楽教室に行こう」、「格闘技が好きだからジムに行こう」。
そこらへんまでなら分かりますが、
「大島紬が好きだからOL生活を捨て、奄美大島に住もう」とはそうそういきませんよね?

そもそも、そういう感覚に抵抗が無いんでしょうね。

手放すこと、諦めることに慣れている。

これまでの生活を捨てるのに全く抵抗が無いんですよね。

―それは成育歴ゆえだったりします?

シンプルにこれまでの会社勤めの生活がつまらなかったんです。

これだけ自分を削る理由が、たかだか「生活費の為」程度ならば時間の無駄だな、と。

そんな人生の使い方は嫌だったですよね。

丁度お付き合いしている人もいないし、
結婚願望も子供が欲しいとも思わなかった。

社会人4年目、貯金もまあまあ、じゃあ今しかないな、と。

人が失敗と思うことを失敗とは思わない性格でしたし、そこでどうにかしようと考えること自体も楽しい。

奥さんからは、「一度、島に来てみて本当に生活が出来るか試してみなさい。

パスポートが無いだけで、いきなり海外で単独暮らすのと同じ感覚だというを理解した方がいい。

覚悟があるなら、面倒は見ます」
と言われたんですが。

もちろん即答しました、「絶対行く!」って。

何の躊躇いもなかったです。

―arneの読者はそもそも普通の暮らしに疑問を持っている方が多いでしょうから、共感出来ると思います。

とはいえ、実際に飛び出した時のふんぎりやその時の状況や心境を聞けたことは、読者にとっても大きな勇気になるエピソードでした。

続いて大島紬の魅力を教えて頂けますか?

まずは100%手仕事であるということ。

機械化されてるのは最初の図案のみなんですね。

染めも泥、田んぼの泥。

奄美の泥はソテツの葉が落ちたもので、肥料、鉄分が豊富なんです。

最初に草木染した糸をそれに浸けることで科学反応によって黒になります。

諸説あるのですが、もともと絹は高級品で、島の人達は着れないので、薩摩藩への献上品だったんです。

薩摩藩の人が取りに来る時に急いで田んぼに隠した物を取り出したら黒だったと、そんな言い伝えがあります。

この国の、自然と人の歴史なんですよね。

他の伝統工芸ももちろん全て歴史に絡んでるんだけど、歴史が苦手な自分でも楽しいなと興味を持ちました。

あとは何と言っても軽さと緻密さですね。

世界で大島だけと言われてる縦と横の織技術。

ペルシャ絨毯やオブラン織もありますが、それは全て横の糸だけ。

縦糸が入っててもズレるので図柄がぼんやりしてる。

わざわざ緩めて織り直してを繰り返して揃えるのは世界に大島紬だけなんですよ。

―それだけのちゃんとした価値があるものなのに、何故こんなにも認知が低かったり価値が伝わらないんでしょう?

そうなんですよね、元々着物文化が無くなってしまったのが大きいですが、
現地の人達もその価値や危機感に気付いてない。

もしこの技術が絶えてしまったら、再現できなくはないかも知れないけれど、また違ったものになってしまう。

魅力とはまた違うんだけど、そんなドラマが詰まっているんですよね。

それに携われるのが嬉しいかな。

ーよく女性が憧れるようなそんなに派手な色味じゃないですよね。

女性の晴れ姿とかではなく、黒白紺とどこか男性的ですよね?

そこも私が好きになったところ、華美でないですよね。

ひねくれてるかも知れないけど、目に見えて分かりやすい価値がそんなに好きじゃないのかも。

ーそこも男性的ですね、吊るしの安物スーツとオーダーの高級スーツの違いのように。

和洋真逆ではありますが似てますよね。

パッと見では分からない、誰に知ってもらわなくても自分だけが分かっている魅力と言いますか…。

これはお客さんに言われたんですけど、イベントでアクセサリーにして売ってる時に
「これは分かる人には分かる。そして、自分は分かる方なんだという満足感。なんか良いわよね」と。

その価値を自分だけが知っていると言う、知的好奇心を満たす贅沢さってありますよね。

ー素材や技術費はいくら高くとも限界がある。

そこから先の価値は、購買者の満足感が大きな付加価値に加わり、それは無限大ですもんね。

はい、どこにでもある物じゃないけれど、誰にでも分かるものでもない。

本当の贅沢、金額じゃなくて心の贅沢、それが嬉しかったんです。

私の技術や島の伝統がそのご婦人のご褒美になってくれるのが嬉しかったな。

ー多かれ少なかれハンドメイドの購買層はそれを分かってくれるポテンシャルを持っていますよね。

さて、大島紬との出逢いや魅力はお聞きしましたが、とは言えの大変さは何かありましたか?

これだけじゃ食べていけないということですね。

もう9年はダブルワーク、二足どころか三足の草鞋でした。

でも大変なのはそこくらい。

技術は本人の努力と性格の問題。

ピアノや筋トレと一緒で、すぐに目に見えて成果が出なくとも、
楽しめないと無理かも。

私は負けず嫌い頑固、あきらめが悪いから苦じゃなかったけれど、
人によってはそこが大変かもしれないですね。

ー確かにこれだけ繊細で忍耐力のいる作業、根気強さが最低限の資質かも知れません。

現在、未来のことで言えば、まだまだ絶対的な認知が低過ぎること。

需要がないともちろん売れないんですが、今はまだ需要がないかどうかすら分からないほど認知が低いから、
まずはそこを探っていきたいです。

着物としてはニーズが無いのは分かってます。
需要が少な過ぎるし、かつ着物が好きな人も大抵が華やかなものを好むから。

簡単に洗濯出来ないし、三桁を超える。

なかなか着物を日常の生活に落とし込むことは難しいですよね。

だからこその切り口として、美術品・芸術品として広まっていければ。

―一方で島での生活は大丈夫でしたか?「都会のよそ者が~」じゃないですけど。

そこまで酷くはないですけど、私自身が人と関わるのが苦手だから、島でもそういった苦労はありましたね。

ローカルの人との価値観が違って。

向こうは関わりを持ちたい、けれど都会はそんな距離感じゃないから、
それがストレスに感じたり最初は怖く感じちゃったかも。

ーではそれでもなお、活動を続けていて良かったことを教えてもらえますか?

ここまで出来てる人はなかなかいないと、最近ようやく思えるようなったことですね。

機織りなんてやってるから、上手く生活も出来ないし、交友関係も広がらないと思っていたんだけど。

「いやいや、すごいことだよ、誰にもできることじゃないよ!」と周りの人達に言ってもらえて初めて、
そうなんだと、自分にとっては特別なつもりのなかった9年間に自信が持てました。

―修道僧のような暮らしですもんね。

そう、自分では淡々とこなしてきたつもりなので、むしろ周りが楽しんでくれている感じ。

あなたの生き方は間違ってないよ、これからが楽しみだねって。

―大島紬の伝統技術や作品の素晴らしさだけなく、鶴さん自身が愛されていますね。

さて、それでは最後になりますが、今後の展望についてお聞かせ頂けますか?

大島紬を世に知らしめる為にブランディングを強化していきたいです。

前に出るのは好きじゃないけれど、自分が広告塔の役割も担っていかなきゃいけない状況なのかなって。

―日本人ってキャッチ―なスターが、身近な存在が欲しいんですよね。

「東京のOLが都会生活を捨て離島で修行してきた」なんてすごいキャッチーじゃないですか?

そこを入口にしつつも、本物を知ってもらえるきっかけにはなりそうですよね。

そうですね、私もそう思います。

だからなるべくこういったインタビューなどには露出し、
作品もとっつきやすい若者に合うプロダクト作りや、コラボから始めていこうと思います。

ブランド名:-TSURU-
デザイナー:中川 裕可里

通販サイト:[BASE]https://tsuru.handcrafted.jp
[minne]https://minne.com/@tsuru-akubi

URL:[Instagram]@tsuru.yukari.n

伝えられることがある。
人の手が作り出す『本物』。
わかる人にしかわからない『価値』。
世界に本当に一つだけの『特別感』。
現役大島紬職人が伝える日本の素敵をあなたに…。
鹿児島県奄美大島の伝統工芸品である「大島紬」を使用したアクセサリーやバッグです。
アクセサリーは主にレジンで封入していて、液が滲みないように独自の加工を施しているので、大島紬としては現地のお土産屋さんや他ではあまりみないカタチとなっております。
バッグ類は年齢、性別を問わず幅広くカジュアルにご使用頂けるデザインとなっております。